変形性股関節症(Osteoarthritis of the Hip)
変形性股関節症とは
変形性股関節症とは、股関節内の関節軟骨が変性・摩耗することで関節構造に変形が生じる非炎症性の退行性疾患です。
軟骨のクッション機能が失われることで、関節の動きが滑らかでなくなり、歩行時の違和感や痛み、可動域制限を生じます。
発症形式には以下の2種類があります:
一次性変形性股関節症:明確な原因がなく自然発生的に起こるタイプ(まれ)
二次性変形性股関節症:寛骨臼形成不全(股関節の屋根が浅い)、先天性脱臼、外傷・骨折後などに続発するタイプ(大多数)
年齢とともに変形性関節症の発症率は上がりますが、股関節の場合は加齢のみではなく、構造的不安定性・筋力低下・運動習慣・姿勢性ストレスが大きく関与します。
症状
進行段階により症状は異なります。
◆ 初期段階
動き始めや長時間歩いた後に鼠径部(足の付け根)のだるさや痛み
お尻(殿部)や太もも、腰に放散する鈍痛
休むと軽快し、動作時に再発する傾向
◆ 進行期
痛みの持続・増悪(夜間痛)
安静時にも痛みを感じることがある
股関節の可動域が制限され、靴下が履けない/しゃがめない/階段昇降がつらい
脚長差や**異常歩行(トレンデレンブルグ歩行)**がみられる
痛み側に体重がかかると、肩や骨盤が揺れるような歩行になる
女性に多く、**寛骨臼形成不全(先天的に浅い股関節)**を背景に、20代で違和感、40〜50代で進行するケースも少なくありません。
原因
変形性股関節症は単なる「老化」ではなく、複合的な機械的ストレスと生体バランスの崩れによって発症します。
寛骨臼形成不全などの構造的問題
筋力低下(中殿筋・小殿筋・腸腰筋など)
股関節のインピンジメント(骨や筋の衝突)
足部・骨盤・脊柱のアライメント不良
運動不足、または過度な運動負荷
ホルモン変化・代謝性因子
一般的な治療
保存療法(疼痛が軽度、進行が緩やかな場合)
体重コントロール、杖の使用、歩行距離制限、筋力訓練、温熱療法など外科的治療(高度な変形・疼痛)
骨切り術、人工股関節置換術(THA)など
カイロプラクティック・オステオパシーによるアプローチ
カイロプラクティックでは変形した関節を元の形に戻すことはできません。
しかし、関節にかかる過剰な負担を軽減し、進行を抑制し、痛みの緩和を目指すことが可能です。
1. 機能評価(Functional Assessment)
股関節の動きを単独で捉えるのではなく、**骨盤・腰椎・膝・足部まで含めた運動連鎖(Kinetic Chain)**を評価します。
骨盤の傾き・ねじれ(仙腸関節機能)
股関節の可動域(屈曲・伸展・内外旋)
大殿筋・中殿筋・梨状筋・腸腰筋・ハムストリングスの筋緊張・バランス
脚長差・重心ライン・歩行時の骨盤移動
股関節に関連する神経支配(L2〜L5)の筋力・反射・感覚評価
2. カイロプラクティック的アプローチ
骨盤・仙腸関節のアジャストメント:股関節の荷重軸・可動性・歩行バランスを最適化
腰椎・大腿骨のモビリゼーション:関節包の滑走性を高め、筋緊張を軽減
筋膜リリース/トリガーポイント療法:中殿筋・梨状筋・腸腰筋などの過緊張緩和
神経−筋制御の再教育:立位・歩行時の体幹安定性を再構築
これにより、疼痛緩和・可動域改善・歩行パターンの正常化を促します。
3. オステオパシー的アプローチ
オステオパシーでは「全身はひとつのユニット」という原則のもと、体液循環と内臓−筋骨格の連動性を重視します。
股関節周囲筋膜・内臓連鎖の緊張を緩和
骨盤底筋群や腰仙部のリンパ循環改善
**頭蓋仙骨療法(Cranio-Sacral Therapy)**による自律神経調整
体液の流れ(静脈・リンパ・滑液)の促進による自然治癒力の活性化
これにより、股関節単体ではなく全身の統合的バランスが回復します。
4. 筋力トレーニングとストレッチ
変形性股関節症では、**関節の安定化筋(スタビライザー)**の強化が不可欠です。
特に重要な筋群:
中・小殿筋(股関節外転筋):歩行時の骨盤支持
腸腰筋(股関節屈筋):体幹安定と脚上げ動作
大腿四頭筋・ハムストリングス:股関節前後安定
深層外旋六筋(梨状筋・内外閉鎖筋・双子筋など):関節中心化の維持
併せて、股関節前面のストレッチ(腸腰筋・大腿直筋)や殿筋の柔軟性改善が重要です。
これらを正しく行うことで関節への圧縮ストレスが減少し、痛みが軽減します。
5. 保存療法との併用
病院での理学療法・運動療法・薬物療法とカイロプラクティック施術を併用することで、
機能面と疼痛コントロールの両面からアプローチでき、相乗的な改善効果が期待できます。
まとめ
変形性股関節症は、単なる「関節の老化」ではなく、
筋肉・関節・骨盤・姿勢のバランス破綻が引き金となる全身的な機能不全です。
カイロプラクティックとオステオパシーを組み合わせることで、
股関節周囲の負担軽減
痛みの緩和
可動性・歩行バランスの改善
進行の抑制
を目指します。
「歩くと痛い」「靴下が履きにくい」「脚の長さが違う気がする」
そんな方は、関節だけでなく全身のバランスから見直すことが改善への第一歩です。
お気軽にご相談ください。